スーパーやコンビニ、ドラッグストアなどは、満員電車やオフィス、学校、医療機関などと同様、感染拡大が最も進みやすい空間のひとつである。密集・密接・密閉の3条件が重なりやすい場所であるのに加え、不特定多数の人がカゴや商品をベタベタ触りまくる場所でもからだ。感染拡大を抑制するためには、本来なら閉鎖することが望ましいが、ライフラインの維持に不可欠な施設として、現在はほぼ普段通りの営業が続けられている。ここでは感染拡大のリスクを少しでも小さくするために取るべき対策を、接触感染と飛沫感染の両面からリストアップしておくことにする。
接触感染を防ぐためにできること
スーパーなどの小売店における接触感染のリスクを抑えるためには、幾つかやるべきことがある。
- まず客や従業員が入店する際には必ずアルコール消毒してもらう。これは本人のためではなく、本人がウイルスを持ち込まないために必要な措置であることを理解して貰う。その後も買い物に時間がかかるようなら、15分に1回くらいは消毒して貰ったほうがいい。買い物の最中にもスマホを操作したり、メモを取り出したり、服や鞄を触ったり、財布を触ったり、顔を掻いたり、髪の毛を触ったりする際、ウイルスが手指に付着する可能性は非常に高い。
- 買い物カゴの取っ手やカートのグリップは従業員が確実に消毒するようにして、消毒済みのものと使用済みのものがハッキリ区別できるようにしておくべきだ。買い物カゴの取っ手の消毒は、積み上げられたものにまとめて振りかけるだけでは効果が不充分であり、エクスキューズにしかならない。手間はかかるが充分な消毒液を含んだ布で従業員が一つひとつ拭き上げるようにしたほうがいい(中長期的には、紫外線や熱風などによってまとめてウイルス除去できるよう工夫された買い物カゴを開発したほうがいいかもしれない)。
- 使い捨て手袋をしていれば安全という誤解は捨てたほうがいい。使い捨て手袋は汚染物と非汚染物が明確に区分できる状況のなかで、どちらか一方のみを扱う場合においてはじめて有効に機能する。それでも正しく区分されていない場合に備え、定期的に交換することが必要だ(手袋の上から消毒する方法もある)。小売店などの現場でこうしたことが徹底されている様子はないので、手袋の着用はむしろ不潔の象徴のようになっている。
- 目で見て選び、手に取ったものは購入する、ということを可能な限り徹底して貰う。商品パッケージは接触感染のルートとなりうることを理解して貰う。アルコール消毒は確実にリスクを抑制するが、ウイルスが手指に付着するのを阻止できるわけではない。そうした手指で商品に触れると、ウイルスの一部はそこに移ることになるだろう。ひとつ買うのに幾つもの商品を手に取り、重さを確認したり、消費期限を確認したりする、めぼしいものを下の方から掘り出したりする、こうした行為は慎んで貰うようお願いする。小売店やメーカーの側でも、消費期限や原材料など、消費者が商品を選ぶ際に確認したい情報はなるべく前面や上面に記載するよう配慮すべきだ。
- 病院に「発熱外来」があるのと同じように、小売店にも「発熱者・感染自覚者受付」のカウンターを店外に設置して、スタッフが対応するようにしよう。必要なものをあらかじめメモしておいて貰い、本人の代わりにスタッフが商品を集めてまわり、決済も代行する。感染予防の観点から、相談には応じられないこと、銘柄指定など細かい要望には応じられない場合があること、希望通りのものが揃わなくても集め直しはしないこと、などのルールを設けておくようにする。間隔をあけて待ち時間を過ごすための椅子を並べ、利用者が多ければ予約制の導入も検討すべきだ。
- レジでの接触感染のリスクを最小化するための工夫をする。現金以外の決済手段を推奨する(場合によっては、現金決済に割増料を設けるか、他の決済手段に割引制度を設けるかするのも一案だ)。余計な手続きを可能な限り省略し、なるべく接触時間を減らしたほうがいい。この際、ポイントカードなどの販促ツールは稼働を停止したほうがいいかもしれない。セルフレジがあるなら最大限活用したほうがいい(一時的に大胆な割引制度を設けてもいいだろう)。どんな場合でもレジスタッフの定期的な消毒は必須だ。
- 試食販売を行っている場合は直ちにやめたほうがいい。
etc…
飛沫感染を防ぐためにできること
一方飛沫感染を防ぐための方法としては次の方法が挙げられる。
- マスク着用にご協力頂く。マスクがなければフェイスタオルや記事のしっかりしたハンカチなどを巻きつけて鼻口を覆って貰う。鼻を出したり顎にかけたりしている人には、正しく着用するようお願いする(マスクに触れた後には手指を消毒してもらう)。入り口のところにスタッフが立ち、ご協力頂けない場合には入店をお断りする。
- 買い物する人はなるべくひとりで来て貰う。入店者が増えれば増えるほど、人口密度が高くなる。来店者が増えると、飛沫感染と接触感染の両面においてリスクが高まる。特に子供はあちこち触りまくるし、駄々をこねたり泣いたりするし、節度ある行動を求めにくい。そうでなくとも子供を連れながらの買い物には時間がかかるので、家でみてくれる人がいるなら、なるべくそうして貰ったほうがいい。人の少ない時間帯を案内するのもひとつの方法だ。
- 店内での立ち話は控えて貰う。店内での会話は飛沫感染のリスクを高める大きな要素だ。同行者のあいだでなされる会話はもちろん、知り合いと久し振りに会ったときでも会話は控えるよう協力して貰う。会話が必要なときは、なるべく小声で、店内で話す必要のあることのみを伝達し、無駄話は遠慮して頂く。どうしても話したければ、外に出てからにして貰う。
- 店内での滞在時間をなるべく短くして貰う。もし可能なら、事前には必要なものの一覧をメモしておいて貰えるよう促してみる。迅速に買い物ができれば滞在時間を減らせるし、買い忘れがなくなれば買い物の頻度を減らすことができる。
- 人と人がなるべく近付かなくて済むようにする。入り口のところにスタッフを配置して、店内の人口が一定以上にならないよう入店者数を制限する。レジに行列ができないよう、少し余裕を持った人員を配置しておくようにする。どうしても並んで貰わなければならないタイミングがあった場合でも、十分な間隔をあけて並んで貰うようにする。
- 出入り口や窓を開放しておくなど、可能な限り換気し続けるようにする。屋外テントと同じくらいオープンな空間にできれば理想的だ。風のない日は送風機を使うなどして強制的に空気を入れ換えるようにする。エアコン代が惜しければ稼働を停止したほうがいい。
- レジスタッフを守るためのシールドがあったほうがいい。
- トイレのハンドドライヤーをまだ動かしているようなら、直ちに止めるべきだ。
- 不要不急の相談を控えるよう協力して貰う。代わりにFAQを設置し、案内できるようにしておく。
etc…
感染対策にはそれなりのコストがかかる。そして、これだけの対策を取ったとしても、感染を確実に抑えられるわけではない。そうしたことから、いい加減な手続きで済ませているにもかかわらず、対策を講じている気分になったり、あるいはその素振りだけ見せたり、して満足しているケースが多々あるように見受けられる。しかしこれは、顧客をリスクに晒すだけでなく、店舗側にとっても大きなリスクであることを確認しておきたい。
いまのところ、仮に店内で感染が起きたとしても、その事実が確認されにくい状況があることは間違いない。しかし、人々の移動をモニタリングして感染経路の分析を可能とするスマホアプリや感染経路をビッグデータで解析するシステムなどの導入が進めば、感染が起きたと推定される場所が特定される可能性がある。そうでなくとも、店側がどのような感染症対策を取っているか、よく観察している人もいる。いい加減な対策しか講じていないことは、顧客の信頼を失うリスクを抱えることでもある。
しかし、恐らく小売店にとって一層重く受け止めるべきなのは、いい加減な対策しか講じないことは従業員やその家族を感染リスクに晒すことになるという点だ。店内の感染症対策の影響を最も強く受けるのは、来店客よりもむしろ従業員なのだ。これは本人が感染してしばらく出勤できなくなるという程度の問題ではない。従業員の感染が明らかになれば、長期に渡る自宅待機を要請される濃厚接触者が数十人に及び、休業を余儀なくされる可能性もある。そればかりか、症状の有無にかかわらず、感染した従業員がリスクの高い家族にうつし、その生命を奪ってしまう可能性すらある。感染により家族を失った従業員が同じ店から2人も3人も出てきたら、店側もさすがに無事では済まされないだろう。